要望書・請願書・質問書

質問書(2003/05/26)

平成15年5月26日

厚生労働省
坂口 力 大臣殿

質問書

拝啓
新緑の候、時下ますますご清祥の段、お慶び申し上げます。平素は厚生労働行政にのご尽力を賜り、厚くお礼申し上げます。

さて、既にご承知のことと存じますが、貴省は本年一月、福岡県と共に、九州大学医学部附属病院に共同指導に入られ、同病院が膀胱がんの治療として行っていたM-VAC療法の内の二剤、メトトレキサートとビンブラスチンが膀胱がんには、保険適応となっていないため、保険請求していた同病院に対して、貴省等は不正請求だと指導されました。
同病院は、とりあえず現在治療中の患者に対しては、保険適応外の薬剤費を病院が負担することで、治療を継続して下さっておりますが、今後は使用を縮小せざるを得ないと言っております。
私共が不思議に思いますのは、貴省は白書の中でも「EBMの推進」を謳われ、医薬局安全対策課が「抗がん剤適正使用のガイドライン(案)」を公表したりしております。
上記の九州大学病院が行っていた治療も、このガイドライン(案)の中で推奨されている治療でございます。
貴省は、一方でM-VAC療法を勧めておきながら、他方でそれを行った病院を不正請求だと取り締まるという明らかに矛盾した政策を行っております。
貴省は、EBMと保険制度に矛盾が生じた場合、どちらを重視するのでしょうか?
それはとりもなおさず、現在、命をかけてがんと闘っている患者にとっては、「生命」と保険とのどちらを優先するのかということです。
もしもEBMに日本の医療保険制度が追いついていないのであれば、それが判明した時点で、その解決策を探るべきであると当会は考えます。しかるに貴省は、製薬会社から申請がないため承認できないことを理由にして、長年に渡って、この問題の根本的解決に着手してきませんでした。その結果が、上記のようながん患者にとっての危機的状況を生み出したと私たちは考えております。

また、イレッサによる副作用死問題でも、貴省は「肺がんの化学療法に十分経験のある専門医が使用すること」と指導されましたが、日本には化学療法の専門医である臨床腫瘍医がいないことは、周知の事実でございます。
本年開催された「がん征圧議員連盟」総会でも、エビデンスのある抗がん剤が保険適応されていない問題と共に、臨床腫瘍医の不在問題を、深刻な問題として、貴省および文部科学省の役人、医学者、政治家の共通の認識としてとらえられていました。
しかるに、貴省などが現在まとめておられる「対がん10ヵ年戦略案」の中には、この臨床腫瘍医育成の問題が一言も触れられておりません。それは何故でしょうか?
いくら良い薬が早く認可されても、それを使いこなせる臨床腫瘍医がいなければ、イレッサのような問題がまた起こる可能性がございます。

がん治療の基礎中の基礎である世界的標準治療薬の早期認可と、臨床腫瘍医の育成。この二つの問題につきまして、大臣のご見解をお聞かせいただきたいと存じます。よろしくお願い申し上げます。

敬具

癌と共に生きる会
会長 橋本榮介