小川元三
先日気鋭の若手エコノミストとして売り出し中であった糸瀬茂氏(宮城大学教授)が食道癌で亡くなられた。自己のキャリアを基盤とした実戦型の貴重な論客であっただけにその逝去が惜しまれる。以前3月号で東海大学柔道部師範佐藤氏夫人・久美さんの癌死について触れたが、糸瀬氏の場合と共通するのは、いずれも抗ガン剤による治療を拒否されたということである。
抗ガン剤の代わりに久美夫人は漢方薬、糸瀬氏は免疫療法を選択された(断定的記述になったが、あくまでも私なりの入手情報による推測)。どういう理由で抗ガン剤治療を避けられたのか、それは私が入手できた限られた情報の範囲では推測の域を出ないが、自分の経験上から考えてみると「抗ガン剤に関する情報・知識不足」があったということはなかったのだろうかと思われる。
「抗ガン剤は恐ろしい薬剤。その強い毒性は強烈な副作用を伴い、癌細胞にダメージを与えるだけでなく、正常細胞にも同じようにダメージを与える。両刃の剣といった薬剤である」。「癌が進行して衰弱した体に強烈な副作用を引き起こす抗ガン剤を使用すると、癌の進行を抑えたり、癌を縮小させたりする効果があったとしても、その強烈な副作用で体が痛められ、かえって患者の余命を縮めることにもなりかねない」。「抗ガン剤を使ってもどれ位効くのか分からないし、もう長くはないかも知れない余命を副作用で痛めつけられ苦しみの連続で過ごすのであれば、そのような選択はご免こうむりたい。最後くらいはできるだけ安穏に全うしたい」というのが、我々が一般に抱いている抗ガン剤に対する知識であり感想なのではあるまいか。
今述べたような抗ガン剤に関する情報・知識は間違ってはいない。しかし、もう一歩突っ込んで抗ガン剤というものについての知識を深めると、また違った有用な側面も見えてくるのである.問題は、そこまでの情報や知職の公開・提供が行われたにもかかわらず、抗ガン剤拒杏という選択がなされたかということである。勿論、抗ガン剤を使用すれば必
ず延命効果が著しくあがったり、治癒(完治)するという保証があるわけではないし、抗ガン剤治療に十分通暁した上でなおかつ不採用の判断を下したのであれば、それはそれで一つの選択であった訳で、他人があれこれ言うへきことではない。ただ自分の周辺の人々や病院で知り合った患者の方々との話から判断する限りでは、半可知識のせいで彼らに抗
ガン剤を恐れたり敬遠している傾向が見受けられる。
例えば、抗ガン剤の副作用として
患者本人が自覚するもの
食欲不振、吐き累、下府、脱毛、口内炎、倦怠感、しびれ感など
自覚はないが、要注意なもの
白血球減少、肝機能障害、腎機能障害、心障書、肺障害など
が一般にあげられている。しかし、抗ガン剤であればどのガン剤もこのような副作用が同時に襲ってくるものでもないのである。
抗ガン剤それぞれに起こりやすい副作用の特徴があり、脱毛の起こりやすい薬剤もあれば脱毛の心配は殆どない薬剤もある。また、同じ副作用でも誰でも必ずその副作用が出る
わけではなく、出る人と出ない人が50%と50%といったものの方がむしろ多いのだ。薬剤の臨床経験が豊富な勉強家の医師であれば「この抗ガン剤は、こういう副作用が出る確率が高い」ということが分かっているので、あらかじめそれらの副作用を緩和したり・防御する薬を用意し患者がその副作用で苦しむことを回避する手段(てだて)を講ずることができるのである。つまり、患者のQOL(生活の質)をそれほど落とすことなく抗ガン剤治療を行うことが可能な時代となってはいるのだ。
医者の勉強不足と医療情報の一般人への公開不足が、患者が自己に最適な治療を選択することを阻んでいるという現状がありはしないか。